金融機関経営
変貌する米国格付会社のビジネスモデル
-市場から評価されるデータ事業の強化-
橋口 達、坂上 聖奈
要約
- 近年、金融市場におけるデータの重要性が一層高まっている。規制当局に提出するデータの粒度や頻度は高まり、他社との差別化のためのデータへの投資の重要性も増している。データ事業を巡る買収は活発化しており、その中で格付会社が重要な役割を担っている。
- 信用格付市場は、金融危機以降、米国の証券規制における格付の参照が取り除かれるなどの環境変化があったが、現在もS&Pグローバル、ムーディーズ、フィッチの寡占が続いている。他方、S&Pグローバルとムーディーズは、データ事業を中心とする新たなビジネスモデルを構築することで、市況に左右される格付事業への依存度を下げてきた。
- S&Pグローバルは、不採算事業の売却やIHSマークイットとの合併を通じて、信用格付以外の事業に注力してきた。現在は、金融市場においてデータ販売に留まらない、金融市場の業務効率化を図るソリューションの提供者として、グローバル市場の活性化に寄与している。
- ムーディーズは、統合リスク評価を標榜し、現在では、信用リスクに留まらず、気候変動リスクやサードパーティ・リスクの理解、評価、管理、低減を支援する企業に変貌した。
- 金融危機以降の両社の株価は、大手金融機関を大きくアウトパフォームする。格付事業の高収益性や、格付以外の事業の安定性や成長性が市場から高く評価されている様子が窺える。両社の取組は、市況に影響を受けやすい金融グループにとっても、金融資本市場における自身の役割を再定義し、市場から評価される事業ポートフォリオを構築するにあたり、参考になるものと思われる。