個人マーケット

ウェルス・マネジメント業界の質の向上を図るシンガポール
-マネー・ローンダリング対策の強化を中心に-

北野 陽平

要約

  1. アジアを代表する国際金融センターの1つであるシンガポールでは、2024年6月にマネー・ローンダリングのリスク評価報告書が10年ぶりに公表された。同報告書では、マネー・ローンダリングのリスクが高い金融事業者として銀行が挙げられており、特にウェルス・マネジメント分野において同リスクが高いとされている。
  2. シンガポールは、国際的なウェルス・マネジメントのハブとしての地位を確立している。アジアにおける超富裕層の増加や世代交代の進展を背景として、シンガポールでは超富裕層一族の資産管理・運用等を支援するファミリーオフィスの設立が増加している。シンガポール金融管理局(MAS)は、ファミリーオフィスを誘致するため、税制優遇を行っている。
  3. 2023年8月にシンガポール最大となるマネー・ローンダリング事件が発覚し、外国籍の10人が逮捕された。押収資産総額は、2024年1月時点で30億シンガポールドル超となった。当該事件を受けて、MASは、ウェルス・マネジメント業界の質の向上を図るべく、国内金融機関に対してマネー・ローンダリング対策を強化するよう指導しており、顧客の資産の出所を確証することを促している。
  4. ウェルス・マネジメント業界におけるマネー・ローンダリングの取り締まり強化は、同業界の健全性及び信頼性の向上を通じて持続可能な成長につながることが期待されている一方、短期的には成長を阻害する可能性もある。今後シンガポールが、量と質の両面でウェルス・マネジメント業界の持続的な発展を目指す上で、金融機関のコンプライアンス負担も考慮しつつ、適切なマネー・ローンダリング対策が講じられるよう、バランスの取れた規制対応が求められよう。