税・会計制度

税務情報の国別一般開示を要請する欧米の動向
-機密性の高い法人所得税関連の投資家等への開示-

板津 直孝

要約

  1. 欧州連合(EU)では、2024年6月22日以降に開始する事業年度より、税務情報の国別一般開示を求める、国別報告書(CbCR)に関する指令が適用される。同指令は、一定のEU域内の多国籍企業及びEU域内子会社等を有するEU域外の多国籍企業を適用対象とする。
  2. 米国では、2023年12月、会計基準更新書(ASU)第2023-09号「法人所得税:法人所得税の開示の改善」が公表された。米国会計基準の採用企業は、毎事業年度、税率調整における情報及び法人所得税の納付額を、税務管轄区域ごとに細分化して開示する必要がある。
  3. 税務情報を国別に報告するCbCRは、経済協力開発機構(OECD)による「税源浸食と利益移転(BEPS)」プロジェクトにおいて、国際的に整備された。BEPSは、多国籍企業が利益を海外に移すことで、納税額を大幅に削減、場合によってはほぼゼロにする活動を指す。税法上のCbCRは、租税条約等で定められた守秘義務の下、税務当局間での国際共有及び利用に制限されている。
  4. BEPSプロジェクトの国際的な推進により、多国籍企業が直面する税務上の課題が具体化されてきている。加えて、税務情報の国別一般開示については、税務当局から投資家等へ情報利用者を拡大する、国際的な潮流がある。多国籍企業は事業を行う各国での法人所得税の納税実績や国際的なタックスプランニングに関して、今後は税務当局だけではなく、投資家等に対して一層の説明責任を果たしていく必要がある。経営者の意思決定の基礎となる企業の構成単位においては、事業別セグメントとは別に、国別・地域別セグメントに基づくマネジメント・アプローチの重要性が高まってきていると言える。