税・会計制度
自社株買いへの物品税に関する米国の新たな規則案
-米国子会社を有する日本の上場企業への影響-
板津 直孝
要約
- 米国財務省及び内国歳入庁(IRS)は、2024年4月、自社株買いに関わる物品税の新たな規則案を公表した。規則案は、原則として、米国内の内国法人である上場企業が、自社株買いをした場合又は特定関連者が当該上場企業の株式を取得した場合、株式の公正市場価値の1%に相当する物品税を課す。
- 本規則案は一定の条件下では域外適用の可能性がある。日本の会社法では、子会社による親会社株式の取得は原則として禁止されている。しかし、日本の上場企業が直接自社株買いなどをした場合に、資金調達方法によっては物品税の対象となりうる点には留意する必要がある。
- 資金調達規則では、米国子会社が物品税を回避することを主たる目的として、海外の親会社による自社株買いや米国外子会社による親会社株式の取得に、配当や貸付などの手段により資金を提供した場合、物品税が課税される。また、米国子会社が下位関連事業体に資金を提供し、当該資金提供が、下位関連事業体又は下位関連事業体の代理による日本の親会社株式の取得から2年以内に行われた場合、物品税を回避する主たる目的が存在すると推定される。
- 日本企業の自社株買いは、過去最高を更新している。国際収支を確認すると、日本の経常収支は近年、日本の親会社と海外子会社等との間の配当金や利子等を由来とする第一次所得収支の黒字を背景に、経常黒字が拡大している。海外子会社の配当政策においては、親会社の財務戦略に応じて配当が不定期となりやすく、米国子会社による当期に稼得した利益を上回る配当は、当該配当の主たる目的が、日本の親会社の自社株買いに対して資金を提供することであると判断される可能性もある。米国子会社からの配当などを通じた資金調達取引には、米国における物品税の観点から、留意することが重要である。