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明治大学専門職大学院 専任教授 沼田 優子
要約
日米株式市場は史上最高値圏にある一方で、短期的な変動も大きく、投資家の不安が高まりやすい局面にある。本稿は、米国における投資アドバイスの変遷を踏まえ、銘柄推奨からファイナンシャル・プランニングや行動コーチングへと機能が拡張してきた経緯を整理する。近年は、ロボアドバイザーや人工知能(AI)などのテクノロジーが「最適解」を提示できる環境下において、個人の心理や価値観に応じた「許容解」を導くことが目指されている。今後も、個人とアドバイザー双方の金融リテラシー向上と協働が、ファイナンシャル・ウェルビーイング実現の鍵となろう。
小立 敬
要約
- 世界金融危機以降、ノンバンク金融仲介(NBFI)が世界的に拡大している。NBFIが著しく発展している米国では、政策当局者の間で、銀行とNBFIは独立的に進化し、異なる金融仲介を並列に行っているという見方がされてきたが、NBFIの拡大によって米国の金融規制の背景となってきたそのような伝統的な認識が成立しにくくなっている。
- その代わり、銀行とNBFIにまたがった金融仲介のトランスフォーメーション(変容)が起きているとの認識が生まれつつある。例えば、融資に関しては、かつては銀行が実行し、バランスシートで保有していたが、現在ではNBFIが組成する一方で、そのファイナンスを銀行が提供するという形態で金融仲介が行われるようになっている。
- 銀行による融資が変容した代表的な例が、近年急拡大しているプライベート・クレジットである。NBFIの規制遵守コストが相対的に低い中で銀行の自己資本規制や監督が組み合わさると、銀行による直接的な融資が妨げられることなど、プライベート・クレジット市場拡大の背景について様々な議論が行われている。
- NBFIの拡大とそれに伴う金融システムの構造的な変化は、不可逆的な趨勢であって、銀行とNBFIをまたがった金融仲介の変容は、今後も様々なかたちで生じることが想定される。プライベート・クレジットについては、その潜在的なリスクに注目が集まっている。今後、政策当局によるいくつかの分析の作業を経てより具体的に把握されることが期待される。
橋口 達、小立 敬
要約
- 米国においてプライベート・クレジット・ファンド(以下、PCF)を巡る混乱が続いている。ブルー・アウル・キャピタルを発端に、他の運用会社のPCFでも投資家の解約請求が相次いで増加したことが明らかになっている。
- PCFは、信用リスクが高い企業等に対して比較的高い金利で融資を行う。グローバル金融危機以降、銀行規制の大幅な強化を受けて、銀行の信用供与に伴う資本コストが上昇して融資余力が減退したことなどを背景に、米国を中心に大きく拡大してきた。
- 解約請求が急増しているPCFで共通しているのは、投資家にとっての流動性の観点から「セミ・リキッド型」に分類されるファンドという点である。セミ・リキッド型ファンドは、非流動性資産を保有することによる流動性プレミアムの獲得と、定期的な解約機会により生まれる流動性リスクとの両立を図った、富裕層を含む個人投資家向けに設計された運用商品である。
- 現時点で、PCFを巡る混乱が米国の金融システム全体に影響する可能性は高くないと考えられている。一方、今般のセミ・リキッド型ファンドに対する解約請求の急増を受け、ファンドが有する流動性のミスマッチの議論が改めて注目される可能性がある。
小立 敬
要約
- ステーブルコインの市場が拡大している。ステーブルコインは一般に、特定の価値に固定されたペッグ価値を維持しながら、通常はブロックチェーン上で発行される暗号資産である。もっとも、発行者はペッグ価値を完全に保証しておらず、これまでにペッグ価値から乖離するディペッグも数多く生じている。
- ステーブルコインでは、ペッグ価値を安定させるために担保や市場アービトラージという安定化メカニズムが設計されている。担保型では、発行者が準備資産を保有し、償還請求があった場合には、直ちに担保を交換できるようにしており、担保の種類によって、①法定通貨担保型、②コモディティ担保型、③暗号資産担保型がある。プライマリー市場とセカンダリー市場の間のアービトラージも重要な安定化メカニズムとして位置づけられる。
- ディペッグの代表的な事例として2022年5月のテラのUSTがある。テラが発行する暗号資産を合計した時価総額は当時、ビットコインやイーサリアムに次ぐ規模であったが、USTでディペッグが生じた結果、テラが発行する暗号資産のルナの価値も失われ、テラのエコシステムは崩壊した。法定通貨担保型のUSDCでもディペッグが生じている。USDCの準備資産は預金と米国債であったが、2023年3月に破綻したシリコンバレー・バンクに預金していた影響からディペッグが生じた。
- ペッグ価値から乖離するディペッグのリスクは、ステーブルコインの設計や安定化メカニズムによって異なる。ステーブルコイン保有者は、ステーブルコインに固有のディペッグ・リスクについて、十分な認識を持つことも求められよう。
北野 陽平
要約
- シンガポールでは昨今、ステーブルコインを巡る動きが活発化しつつある。背景には、シンガポール金融管理局(MAS)による規制整備や利用拡大に向けた取り組みがある。そうした中、デジタル決済事業者がステーブルコインを発行し、大手銀行が準備資産(裏付け資産)の保管・管理を行う動きが見られる。
- MASは2025年10月、金融業界と連携してステーブルコイン等での決済を促進するため、BLOOM(Borderless, Liquid, Open, Online, Multi-currency)と呼ばれる取り組みを開始した。当初は、①決済用資産の流通と清算、②プログラマビリティを利用したコンプライアンス・チェックの自動化、③人工知能(AI)エージェント決済、の3分野に焦点が当てられている。
- ステーブルコインは、セキュリティトークン取引の決済手段としても注目されている。実際、ステーブルコインを用いたレポ取引を伴うクロスボーダーでのトークン化債券発行の実験が行われるとともに、トークン化マネー・マーケット・ファンド(MMF)持分の売買をステーブルコインで決済するための金融機関間の提携も見られる。
- MASは、セキュリティトークン取引の決済手段として、ステーブルコインのみならず、トークン化預金とホールセール型中央銀行デジタル通貨(CBDC)も有用と認識している。ステーブルコインは、発行者の信用リスクや準備資産の流動性リスク等が伴う一方で、より幅広い層に利用され得る。また、クロスボーダーでの利用が拡大していることに加えて、分散型金融(Defi)でのセキュリティトークン決済に利用されることもあり得る。
- 今後の注目点として、①非米ドル通貨連動型ステーブルコインの発行増加及びクロスボーダー決済の拡大、②セキュリティトークン発行・流通のユースケース拡大に伴うステーブルコイン決済の広がり、の可能性が挙げられる。こうしたシンガポールの取り組みは、円連動型ステーブルコインの発行が開始され、ユースケースを模索している日本にとっても参考になるものと考えられる。
江夏 あかね、坂上 聖奈
要約
- 大手信用格付会社のS&Pグローバルは2023年12月、ステーブルコインの安定性評価の開始を発表した。また、ムーディーズは2026年3月、ステーブルコインのクロス・セクター格付手法を公表した。
- S&Pグローバルによるステーブルコインの安定性評価は、信用格付けではなく、法定通貨とのペッグを維持する能力に関する見方を5段階(1〔Very Strong〈大変強固〉〕~5〔Weak〈脆弱〉〕)で示すものである。同社は2026年3月末時点で、11つのステーブルコインを、4段階(2〔Strong〈強固〉〕~5〔Weak〈脆弱〉〕)の範囲で評価している。
- ムーディーズはステーブルコインについて、信用格付けの中でも預金格付けという形で評価・分析結果を示していくこととした。同社は格付手法公表から間もないこともあり、2026年3月末時点では、ステーブルコインへの格付け付与を開始していない。
- ステーブルコインという新たな金融商品が誕生してから約10年で、世界的に主要な格付会社2社による取り組みが始まったことは、金融資本市場参加者や既存ないし潜在的な利用者に対してステーブルコインを選択する際の判断軸や、ステーブルコインが健全に発展する道筋を提供し得るといった観点で意義深い動きと言える。
- ステーブルコインの安定性評価及び信用格付けをめぐる今後の注目点としては、(1)2社による評価・分析結果がどの程度共通・乖離するものになるか、(2)ステーブルコインの普及にどの程度寄与するか、が挙げられる。特に、2点目について、2社による評価分析も活用したステーブルコイン関連の金融商品開発が進む可能性も期待される。
富永 健司
要約
- 米国において、テキサス州が金融拠点としての存在感を高めている。同州では、多様な産業に支えられた経済成長が続く中、証券業をはじめとする金融業の規模が拡大している。特に、同州におけるダラス・フォートワース都市圏を中心とした金融街は近年、金融業が集積する地域として、通称「ヨールストリート(Y’all Street)」と呼ばれ、注目を集めている。
- テキサス州において、金融業を含む産業の発展は、税制面の優位性、同州で新規雇用の創出と投資を誘致するために設立された基金による補助金を通じた支援、労働人口の流入をはじめとする良好なビジネス環境に支えられている。
- 個別金融機関の事例としては、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスによる拠点拡大、チャールズ・シュワブによる本社移転、ブラックロックによる事業対応と関係構築に関する動きが見られている。今後注目される点として、テキサス証券取引所による上場誘致の動向が挙げられる。親会社であるテキサス証券取引所グループの創業者で、会長兼最高経営責任者(CEO)であるジェームズ・リー氏は、環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮する動きから一定の距離を置き、ビジネス及び投資家のニーズに応える「中立的」なプラットフォームとして取り組みを進めていくとの方針を示している。
- 金融機関のテキサス州における拠点拡大が今後も継続し、同州における金融業の集積がさらなる経済成長に寄与していくのか、また、テキサス証券取引所による上場誘致とそれに伴う取引所間競争が、米国企業の上場を通じた資金調達環境にどのような影響をもたらしていくのかといった点について目が離せない状況である。
関田 智也
要約
- 英国政府は2025年6月、今後10年間における重点分野への投資増及び産業発展を促す「現代産業戦略(Modern Industrial Strategy)」を公表した。現代産業戦略では、今後10年間で最も大きな成長の可能性を秘め、経済安全保障とレジリエンス、ネットゼロ、地域の成長といった政策目標を支える上で重要な役割を果たす重点産業が特定されている。
- ナショナル・ウェルス・ファンド(NWF)は、前保守党政権下の2021年に創設された政府系銀行を出自とする政府系ファンドである。現労働党政権下で投融資対象セクターが拡大されており、現代産業戦略で明示された重点産業を金融面から支援するという新たなミッションを与えられたと解釈できよう。
- また、英国政府はNWFに対して、民間投資の喚起を期待している。民間投資の「触媒」となる役割を果たすため、英国政府はNWFへの追加出資に加えて、NWFが備える投融資手法の拡充等を行っている。
- NWFが多様な投融資手法を組み合わせたリスクマネーの供給を通じて「投資可能(インベスタブル)」な環境を実現し、民間投資の「触媒」となる役割を果たしていることは、日本の政策金融機関や政府基金の運営や役割を巡る議論にも一定の参考になると考えられる。また、NWFを含む公的資金提供主体による重複を回避し、サービス提供のギャップを埋めるべく創設された戦略的公的投資フォーラムも、重点産業への効率的・効果的な支援という観点から、日本にとり一定の参考になると考えられる。
宋 良也
要約
- 中国の株式市場では従来、持続可能な市場の成長を支える「中長期的な投資」が十分に行われていないことが問題視されてきた。そこで、中国政府は、株式市場の活性化を図るべく、2024年に「中長期的な資金の株式市場への誘致、(保険会社や公募基金管理会社等の)資金運用の長期化の促進」(中国語:「長銭長投」)政策の方針を固めた。これを受け、各金融管理監督当局は2025年以降、保険分野及び公募基金分野の同政策の関連細則を相次いで導入してきた。
- 「長銭長投」政策は、①保険会社や公募基金管理会社の中長期資金の株式市場への誘致を促進するための施策、②資金の運用長期化を促進させるための施策、に大別される。そのうち、①の主な施策として、保険会社のエクイティ投資割合の上限引き上げや、株価指数型上場投資信託(ETF)の登録手続きの簡素化等が挙げられる。②の施策では、国有商業保険会社の重要業績評価指標(KPI)における長期指標の導入や、公募基金の評価体系への長期指標の組み入れ等が含まれる。
- 2025年1~9月において、保険会社及び基金管理会社では株式運用残高の増加や、運用資金全体に占める株式運用残高の割合の上昇が見られた。これは上記施策が寄与したものと考えられる。今後、企業年金分野においても、「長銭長投」政策の関連細則が導入される見通しである。これにより、保険や公募基金に加え、企業年金の分野においても、中長期資金での株式投資拡大や、資金の運用長期化が更に促進される可能性がある。
橋口 達、佐々木 遼太
要約
- ゴールドマン・サックスは、アセット&ウェルス・マネジメント部門(以下、AWM部門)を成長領域に位置付けている。同社は、2022年10月に部門再編を行い、資産運用事業とウェルス・マネジメント事業から成るAWM部門を創設し、預かり資産の拡大を通じた収益の増加を図っている。
- AWM部門の戦略には、近年、米国のウェルス・マネジメント業界で台頭する独立系投資顧問会社(以下、RIA)が密接に関係している。ゴールドマン・サックスは、RIAに対して、ウェルス・マネジメント事業の職域グループから富裕層を紹介するとともに、富裕層との親和性が高い運用商品やカストディ・サービスを提供している。
- ゴールドマン・サックスは、2025年に入り、資産運用会社に対する大型の出資・買収を連続して行った。ウェルス・マネジメント事業の超富裕層向けアドバイザーやRIAの取り扱う運用商品・サービスの拡充、超富裕層との接点拡大により、AWM部門の預かり資産拡大・収益増加を加速する狙いがある。急ピッチで進むゴールドマン・サックスのAWM部門の取り組みは、今後も注目に値する。
関田 智也
要約
- グローバルな資産運用業界は、厳しい環境に直面し続けている。世界の運用資産残高(AUM)は拡大基調にある一方で、AUMに対する利益の割合は、アクティブ運用報酬の低下とコスト増加などを背景に、業界全体で低下トレンドを辿っている。こうした環境下、多くの大手資産運用会社がパブリック市場対比で高い利益率を維持するプライベート市場関連ビジネスの拡大を企図している。
- このような潮流の中で、傘下に保険および資産運用子会社を擁する英国の大手金融サービスグループであるM&G plc(以下M&G)が注目を集めている。M&Gは、アセットマネジメント・保険・ウェルスの3部門を有機的に結合させる「三位一体戦略(Synergistic business model)」を経営戦略の中核に据え、保険部門の安定資金を戦略的シード投資家として活用している。また、M&Aの実施を通じて、プライベート市場運用能力の補強を実現している。これらの取り組みにより、M&Gのアセットマネジメント部門において、プライベート市場関連事業は同部門の収益の4割を占めるに至っている。
- M&Gの三位一体戦略は、グループ内の資産運用会社に対する優遇を巡る懸念など、利益相反のリスクを内包している。同社はこうしたリスクへの懸念を払拭するべく、独立した委員会の設置をはじめとする多層的なガバナンス体制やアームズ・レングス原則を徹底している。
- M&Gの三位一体戦略および取り組みは、アセットマネジメント事業においてパブリック市場からプライベート市場へと軸足を移し、競争優位を確保するという点で効果的であったと言える。日本の大手金融機関も、グループ内からのシード資金の投入や、プライベート市場関連商品の販売能力の充実化などにより、プライベート資産関連ビジネスの競争力を向上させることができる可能性がある。
関根 栄一
要約
- 中国本土において日本のサムライ債に相当する非居住者人民元建て債、いわゆる「パンダ債」は、2005年の市場創設から2025年で20年目を迎えた。パンダ債の発行金額を見ると、2024年は1,948億元(前年比85.5%増)と過去最高水準を記録した。
- また、パンダ債の発行金額を邦貨換算すると、2023年から2025年まで、3年連続でサムライ債の発行規模を上回っている。発行金額増加の背景には、米中金利差といった市場環境もあるが、発行体や資金使途、為替・送金規制を段階的に緩和し、発行制度の最適化を進めてきた要素も寄与しているとみられる。
- パンダ債の発行体は、①アジア開発銀行(ADB)などの国際開発金融機関(第1号は2005年10月)から始まり、②外国政府(同2015年12月)、③海外金融機関(同2015年9月)、④海外事業会社(同2014年3月)へと多様化していった。発行体の構成銘柄は2025年末時点で、これらの4種類から成る海外発行体と、中国本土系の海外上場会社の「レッドチップ」に分類される。
- パンダ債市場の発展の経過は、①始動期(2005~2015年)、②人民元の国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)構成通貨入りがきっかけとなった市場規模の拡大期(2016年)、③不動産会社による発行を抑制したリスク管理強化期(2017~2019年)、④新型コロナウィルス流行期間と重なるレッドチップ主導期(2020~2023年)、⑤発行制度の更なる最適化を受けた市場規模の再拡大期(2024年~)に大別される。
- 近年の動きとして、2024年1月に、発行市場の活性化や外国人投資家の呼び込みに向け、邦銀を含む外資系銀行へのパンダ債引受主幹事資格が新たに付与された。2025年には米国の発行体が初めてパンダ債を発行し、海外発行体の割合も増加傾向にある。新開発銀行(NDB)を始めとするグローバルサウス系の国際開発金融機関・政府・企業によるパンダ債の発行事例も続いており、発行体の多様化の動向が今後も注視される。
大川 隼人
要約
- 日本銀行「資金循環統計」によれば、2025年12月末時点の個人金融資産残高は2,350兆8,965億円となり、3四半期連続で過去最高を更新した(前期比2.8%増、前年同期比5.3%増)。2025年10~12月において、堅調な株式市場を背景に、株式等が前期比7.6%増、投資信託が同8.3%増となった。また、現金・預金は同1.6%増となったが、個人金融資産残高に占める比率は48.5%となり、2四半期連続で50%を下回った。
- 2025年第4四半期(10~12月)中の動きを見ると、「現金・預金」は17.9兆円の資金純流入となった。また、リスク性資産では「債務証券」が12四半期連続、「投資信託」が23四半期連続の資金純流入となり、有価証券への資金流入が継続している。「上場株式」は株価上昇局面での利益確定売りが重石となったが、0.1兆円の純流入となった。
- 個人金融資産に占める暗号資産の残高規模は現時点では限定的だが、利用者口座数や関心層は拡大している。暗号資産を巡っては、金融商品取引法への規制移行や分離課税、現物ETF(上場投資信託)等の解禁に向けた制度整備が進みつつあり、個人金融資産動向や投資行動に影響を及ぼす可能性がある。今後は、暗号資産への投資アクセスがどの程度拡大するか、また、価格変動の大きい暗号資産に見合う形で投資家保護が整備されるかが焦点となろう。
- また、ステーブルコインの活用が進むことにより、送金・決済といった金融サービスの在り方のみならず、伝統的資産の売買・決済にどこまで活用が拡大するかという点にも注目する必要がある。
佐々木 遼太、橋口 達
要約
- 米国の職域確定拠出型年金(DC)プランは、多くの米国民の老後の資産形成において重要な役割を担っている。足元では、富裕層に分類される加入者も続々と生まれつつある。その背景には、長期にわたる分散投資の実践を支える仕掛けがあり、運用に関心のある個人には、職域DCプラン内の加入者向け資産運用サービスが浸透している。
- 加入者向け資産運用サービスは、投資アドバイスとマネージド・アカウントに大別される。前者は運用商品メニューの中から具体的な商品名を挙げて、資産配分比率を加入者に助言・推奨するサービスであり、後者はその内容を自動的に執行するサービスである。さらに、近年では、マネージド・アカウントの発展形として、プラン外の資産も対象とした投資一任サービスや、包括性の高いアドバイザリー・サービスを提供する動きも見られる。
- 加入者向け資産運用サービスの提供には、提供者が雇用主と契約した上でレコード・キーパーと連携し、加入者情報及びプラン情報を得ることが前提となる。一方、雇用主との契約先ではなく、加入者が既に関係を持ち信頼するファイナンシャル・アドバイザーから、職域DCプランの資産も含む包括的なアドバイスを得たいというニーズも存在する。これに応えるかたちで、米国ではポンテラという新たなフィンテックも台頭している。
- 日本のDCは、老後の資産形成における役割への期待が一段と高まっている。今後は、より一層多様性が増すであろう、加入者それぞれの長期分散投資の実践を後押しするために、専門家による投資アドバイス提供の制度整備、マネージド・アカウントのような高度な運用サービスに関する議論などと併せて、サービス及びツールの開発・設計等の創意工夫が求められよう。
中村 美江奈、野村 亜紀子
要約
- オランダの職域年金は、将来年金法の下、2028年1月までに、従来主流だった確定給付型年金(DB)から確定拠出型年金(DC)への全面移行が行われる。労使のリスク共有の観点から既にDBの「DC化」が一定程度進んでいた側面もあるが、画期的な制度変更と言える。
- 移行には、基金が一括運用する集団型DCの連帯拠出スキーム(SPR)、加入者が運用指図する柔軟拠出スキーム(FPR)、保険会社による拠出建て給付スキームという3つの選択肢がある。オランダの職域年金は、産業毎に設立される産業基金を中心に高い加入率を誇るが、最大手のABPを始めとする多くの基金がSPRを選択している。
- 主にSPRへの移行が進むことにより、従来の年金債務重視の運用から、ライフサイクル型運用へのシフトが想定されている。オランダの年金基金は欧州の国債保有主体としての存在感が大きく、国債及び金利スワップ市場への影響が、欧州市場関係者の当面の関心事項となっている。中長期的には、SPRでは給付安定化目的の連帯準備金の積み立てが求められるため、その運用のあり方も注目される。
- 若年世代向けには従前よりも高めのリスクテイクが可能になり、オルタナティブ投資の需要が増加する可能性も指摘されている。DCを通じたオルタナティブ投資促進の動きは米英でも見られ、DC運用のグローバル・トレンドとしても興味深い。オランダでも高齢化が進む中でどの程度の規模感になり得るのか、中長期的な観点から見ていくのが適当であろう。
宋 良也
要約
- 中国証券監督管理委員会(証監会)の通知により、オフィスビル等の商業不動産を原資産とする公募不動産投資信託基金(以下、公募REIT)の試験運用が2025年12月31日に開始された。また、上海・深圳証券取引所は同日、公募REITの発行・審査に係る細則を改正した。これらの施策により、中国の公募REIT市場が新たなステージに突入したと言える。
- 従来の公募型インフラREIT(以下、インフラREIT)と比べて、新たな公募型商業不動産REIT(以下、商業不動産REIT)は国家発展改革委員会による推薦プロセスが不要で、証監会へ直接発行申請ができる等の点が注目される。また、公募REITに共通する規制改革として、審査・発行プロセスの短縮化や、オリジネーターの債務返済や流動性資金の補充等を含む募集資金使途の拡大措置が講じられている。
- 商業不動産REITの試験運用が開始されてから、わずか1ヵ月で既に12件(予定募集金額は合計417.4億元)の商業不動産REITの発行申請が受理された。民間企業や外資系企業のオリジネーターによる申請が件数・金額ともに案件全体の半分以上を占める等、国有企業が圧倒的であったインフラREITと比べて、オリジネーターの構成に大きな変化が生じている。
- 今後は、中国における公募REIT市場の更なる発展に向けて、REIT-ETFの組成や中国本土(上海、深圳)・香港ストックコネクトの投資対象への組み入れ等を通じた、投資家層の拡大が期待される。また、商業不動産REITはPre-REIT基金(日本の私募不動産ファンドに相当)のエグジット先となることも期待されている。その過程において、海外のREIT市場でのノウハウを持つ外資系金融機関は仲介業者としてのサービス提供や、自己勘定での公募REIT投資が可能となり、ビジネス機会の拡大が見込まれる。
野村 亜紀子
要約
- 退職給付信託(退給信)とは、企業が保有する有価証券等を拠出し、目的を退職給付の掛金拠出や支払いに限定した信託である。一定の条件を満たせば、会計上の年金資産と認められる。株式の拠出後も企業が議決権を保持できるため、いわゆる持ち合い株式を拠出しつつ、積立不足の抑制を図ることが可能となる。
- 退給信創設の経緯は、バブル崩壊後の苦境が続く2000年4月に退職給付会計基準の適用が開始され、積立不足が企業の財務諸表にオンバランスされるようになったことに遡る。足下では上場企業の十数パーセント程度が設定していると見られる。
- 退給信内の株式は、企業の政策保有株式の一種である「みなし保有株式」に含まれる。コーポレートガバナンス上は政策保有株式と同様な扱いとなる。政策保有株式は、経営規律の緩みや経営資源配分の非効率化の可能性といったコーポレートガバナンス上の課題が認識されており、長期的な縮小トレンドが続いている。
- 退給信の位置付けにも変化が見られる。2010年代頃には、受取配当や保有株式の売却資金を信託内で運用する「運用版」が登場した。足下では、金利低下等で会計上の積立不足解消が進む中、企業に退給信を返還する動きが目立ち始めている。積立超過が将来的に続く見込みなど一定の条件を満たせば可能であり、政策保有株式縮減にも寄与する。
- 2025年10月開始のコーポレートガバナンス・コード改訂の議論などを含め、今後、企業の保有資産の有効活用に対する注目度が一層高まる可能性がある。退給信を巡る動向も、市場及び制度の環境変化が続く中で起きており、引き続き注視していく必要があろう。
橋口 達、坂上 聖奈
要約
- 足元、グローバルで、ブロックチェーン等の分散型台帳技術を用いたデジタル資産に関して話題になっていることの1つに、「株式のトークン化」がある。株式のトークン化といっても、その内容や形態は、取り組む主体により様々である。
- 欧州では、トークン化プラットフォーム運営会社バックド・ファイナンスやロビンフッド・ヨーロッパが、欧州の投資家を対象として、より柔軟に米国株式へのエクスポージャーを得られるようにするためのトークン化金融商品を提供し始めている。
- 米国では、ナスダックとデポジタリー・トラスト・カンパニー(DTC)という伝統的な金融事業者が、既存の金融システム、市場参加者の役割を大きく変えることなく、ポストトレードの効率性を向上し、提供するサービスの改善により顧客体験を高めるべく、株式のトークン化に向けて取り組んでいる。
- 欧州及び米国の事例からは、様々な金融事業者が、株式について、ブロックチェーンという新しい技術を活用しようと前向きに挑戦している様子がうかがえる。株式のトークン化の利用可能性を模索する日本の証券市場関係者にとっても、欧米の事例を正確に把握することは有用であると言えよう。
関根 栄一
要約
- 中国人民銀行(中央銀行)の陸磊(りくらい)副総裁は2025年12月29日、「デジタル人民元管理サービス体系及び関連金融インフラ整備の更なる強化に向けたアクションプラン」(以下、アクションプラン)を制定したと公表した。
- デジタル人民元とは、中国人民銀行が発行する中央銀行デジタル通貨(英文略称CBDC)であり、実証実験が始まった2020年から2025年までは中央銀行の負債である「現金」として指定運営機関(商業銀行等)10行向けに発行され(デジタル人民元v1.0現金型)、ユーザーがスマートフォン等に専用のアプリをダウンロードしてウォレットを開設し、利用されてきた。
- 今回のアクションプランでは、ユーザーの利用方法は変わらないものの、2026年1月より商業銀行の負債としての「預金」に変更され(v2.0預金型)、ウォレット残高に利子が付くこととなった。CBDCへの付利は、世界の中央銀行の中で中国が初めての試みとなる。デジタル人民元への付利により、預金準備率に応じて中国人民銀行に準備預金として預入れた分以外は貸付に回すことが可能となり、デジタル人民元業務の収益化への道が拓かれた。
- v2.0預金型の下で、管理面では、中国人民銀行の中にデジタル人民元管理委員会が設けられ、各業務を統括するとともに、同行の外郭団体であるデジタル通貨研究所が自主規制の制定・実行を担う体制となった。また、運営面では、国内取引は北京に「デジタル人民元運営管理センター」が、海外取引は上海に「デジタル人民元国際運営センター」が新設された。
- アクションプラン制定の背景には、米国や香港でのステーブルコインの発行制度整備に向けた動きに中国として対抗する狙いもあったと思われる。このため、アクションプランでは、付利に加え、スマートコントラクトを通じたサプライチェーンの分野や、ブロックチェーンを使った貿易金融の分野等で、デジタル人民元の新たな利用シーンを想定した。今後、デジタル人民元の海外取引では、非居住者の保有残高にも付利を認めるかが鍵となろう。証券分野での応用の動きも注視される。
板津 直孝
要約
- 日本は近年、スタートアップの開業率やユニコーンの企業数が低水準であるという課題に直面している。スタートアップは経済成長の原動力であるイノベーションを創出する重要な存在であることから、日本政府は「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、スタートアップへの資金供給強化を目的に、個人投資家向けのエンジェル税制を順次改正し投資促進を図っている。
- 現行のエンジェル税制は、スタートアップの投資時点での税制優遇に重点を置いており、譲渡時の譲渡益控除を認めていないため、例えば米国の適格中小企業株式 (QSBS)と比べると個人投資家のインセンティブは限定される。また、投資方法は直接投資を主軸としているため、個人投資家がスタートアップ特有の投資リスクに対応する必要があり参入障壁が依然として高い。
- 上場ベンチャーファンドは、資産運用会社による運用、投資リスクの分散、上場やM&Aなどを見据えた流動性と出口戦略の整備などにより、個人投資家に対してスタートアップへの間接的な投資機会を提供する。しかし、投資法人に対する税制がファンドの運用実態と必ずしも合致していないことに加え、個人投資家に対するエンジェル税制の適用がない。例えば英国のベンチャーキャピタルトラスト(VCT)の税制は、ファンドや個人投資家への税制優遇で投資を強力に後押ししており、日本の税制との差異が大きい。
- 日本では、直接投資向けのエンジェル税制の改善に加えて、上場ベンチャーファンドの投資法人と個人投資家の双方に対する税制の見直しを進めることが、個人投資家のスタートアップ投資への参入障壁を下げ、スタートアップ・エコシステムの活性化につながると考えられる。
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